◆ このページのお奨めポイント ◆
競業避止義務契約に違反したときの賠償金
- 退職後に独立やライバル企業への転職をしない
- 退職後に顧客に営業をかけない
- 退職後に従業員の引き抜きをしない
という競業避止義務契約に違反したときの賠償金額がどのように決まるのか、ご紹介します。
独立やライバル企業への転職
退職後にライバル企業に転職したことを会社が問題視する場合、
という差止を裁判で求めてくることがありますが、一方で、
とお金での解決を求めてくる場合もあります。
では大体いくらぐらい請求されるのかですが、違約金が契約であらかじめ定められている場合は、その額を請求されます。 金額はバラバラですが、100万〜1000万円ほどになるのではないでしょうか。
退職金の額をそのまま違約金と定めているケースも見ます。 その場合、もう少し額が上がるかもしれません。
とはいえ裁判で相手の請求額がそのまま認められるとは限らず、契約違反の就職により会社が受けた損失を裁判官が推量し、額を調節することも多いです。
といった具合です。
一方で、違約金(≒罰金)ではなく損害賠償金という形で会社が賠償金を求めることもあります。
競業避止義務違反によって100万円の損害を受けたと思うなら100万円を、1億円の損害を受けたと思うなら1億円を、相手に請求するというやり方です。
違約金と違い予め額の上限を定めなくていいのが会社にとって魅力ですが、反面、いくらの損害が出たのかを会社が立証しなければならないわけで、これが会社にとってはなかなかのハードルとなります。
と言ったところで、「けしからん」は会社にとっての損害とみなされません。 罰金ではなく損害賠償金なのですから、会社の受けた損失を具体的な金額で主張しなければいけません。
ということで現実には、ライバル会社に就職したこと「だけ」を理由にして会社が損害賠償を求めるのは難しいと思います。 なかなか損害額を算定できません。
そこで、
といった主張をするのが普通です。
おさらいしておくと競業避止義務には大きく、
- 退職後に独立やライバル企業への転職をしない
- 退職後に顧客に営業をかけない
- 退職後に従業員の引き抜きをしない
があったわけですが、退職者に損害賠償を求める場合には、1だけではなく2や3の違反についても会社は併せて訴えるのが一般的だということです。
そのときの賠償金がどのように決まるのかは、この後のケースでご紹介します。
退職後の顧客奪取
退職後(または在職中)に顧客を奪ったことが違法であるとして、賠償金を請求されるケースです。
この場合は、顧客を奪われたことによって会社が受けた損害額が、そのまま賠償金として請求されます。
1000万円の取引を奪われたと思えば1000万円を、1億の取引を奪われたと思えば1億を、会社は請求してきます。
会社にとっては、損害額を算定するのがいちばん簡単なケースといえます。 奪われた取引額が単純に損害として積み上がるため、場合によっては賠償金額が相当に高額になることもあり、退職者にとっては最も怖いケースでしょう。
さらに、会社の主張する賠償金の根拠がわかりやすいため、裁判官もあまり賠償金額を調整してくれない傾向にあります。
のようなことをあまりしてくれずに、
といった調子で、そのまま機械的にというか、賠償金額が決められてしまいやすいです。 特に、奪った取引が月ごとなどの継続的な契約ではなく、単発の取引だった場合には、損害額を調整する余地があまりないと裁判官は考えるようです。
こちらにとって難しいケースではありますが、闘い方はたくさんあるので、諦めないでください。
退職後の引き抜き
退職後(または在職中)に従業員を引き抜いたことが違法であるとして、賠償金を請求されるケースです。
賠償金の額がどう決まるかですが、違約金が契約であらかじめ定められている場合は、その額を請求されます。 例えば、引き抜いた社員の年収1年分を違約金とする、といった具合です。
一方で、
という場合は、違約金(≒罰金)ではなく損害賠償金という形で、会社は賠償請求することになります。
違法な引き抜きによって500万円の損害を受けたと思うなら500万円を、1000万円の損害を受けたと思うなら1000万円を、相手に請求するというやり方です。
とはいえ、従業員を引き抜かれたことによる損害額を具体的に数字で表すのは、簡単でないことが多いでしょう。
会社にとって悩ましい部分ですが、いろいろな理屈をひねり出し、なんとかそれらしい数字を主張してきます。 例えば次のようなパターンがあります。↓
- 1. 従業員1人あたりの利益(粗利)
-
まず、引き抜かれた従業員が会社にもたらしていた1ヶ月あたりの利益(粗利)を求めます。そして、例えばそれが20万円なのであれば、その1年分である240万円を、引き抜きの損害として算定する、といったやり方です。
会社が営業社員を引き抜かれた場合や、派遣会社が派遣スタッフを引き抜かれた場合などは有効な方法です。 そうしたケースでは、従業員1人あたりが会社にもたらしていた粗利を、まぁ比較的、算定しやすいからです。
一方で開発職や役員を引き抜かれた、といったケースでは、彼らが会社にもたらしていた粗利を計算しづらいので、あまり有効ではないでしょう。
往々にして会社は、
同じレベルの社員を育てるのには3年かかるから、社員の3年分の粗利を請求する!といった具合に、ずいぶん長い期間の「損害」を主張してきますが、認められるのは3〜6ヶ月分程度が多い印象です。
しかし中には、
引き抜いた時点から現在まで4年が経過しているので、その分の粗利を払いなさい。といった厳しい判決が下るケースもあります。そのあたりは引き抜きの人数や悪質性によっても変わってくるでしょう。
- 2. 従業員の紹介料
-
引き抜かれた従業員を補充するために会社が人材紹介会社に支払う金額を、損害として主張するパターンです。
例えば年収600万円の社員を引き抜かれたのなら、同じレベル(つまり年収600万円)の社員を紹介してもらうために、600万円の何割かを紹介会社に払わなければいけない、だからそれが会社の損害なんだ、という理屈です。
たびたび目にする主張ではあるのですが、なかなか認められないのではないでしょうか。
- 3. 継続できなくなった仕事
-
引き抜きが原因で業務を継続できなくなったとして、損害分を賠償請求してくるパターンです。
アオバが従業員を一斉に引き抜いたせいで会社が機能不全に陥り、取引先を失った。その分を賠償しろ!といった主張をしてきます。
営業を妨害された、というわけです。請求してくる賠償金額の根拠としては、
引き抜きによって会社が混乱し、取引先を失ったから、その取引額を払え!引き抜きの前後で、会社の売り上げが○○%下がったから、その分を払いなさい!引き抜きの影響でプロジェクトがご破産になったから、これまでプロジェクトにかけてきた金額を賠償しろ!などですが中には、
引き抜きによって会社は営業を続けられなくなり倒産したから、負債を賠償しろ!といった主張まであります。
色々なことを言ってきます。しかし、いずれにしても、引き抜き行為と会社の損害との因果関係が明らかでないので、会社にとって難しい裁判になることが多いでしょう。
- 4. データ復旧費用
-
違法な引き抜きの証拠をつかむために、会社は削除されたパソコンのデータ復旧を業者に依頼することがあります。 その費用が会社の損害であるとして賠償請求をしてくるパターンです。
必要な支出であったのなら、認められやすい請求だと思います。 1台あたり数万〜数十万円が相場ですが、引き抜きの関係者が多ければ、トータルで数千万円を請求されることもあります。
【関連ページ】