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ライバル会社へ転職したことが理由で訴えられた人や訴えられそうな人のためのページです。 前半部分を読むだけでも、どんな場合に競業避止義務契約が有効と判断されるか、おおよそのことがわかります。

そして、後半部分では、さらに踏み込んで理解したい人のために、裁判で勝つためのポイントを具体的にかなり詳しく紹介しています。 Webでは他になかなか見られないボリュームだろうと思います。

会社から訴えられた 〜競業避止義務と裁判

会社から訴えられました。退職後にライバル企業に転職したのが契約違反だというんです。 ぼくは負けてしまうのでしょうか。

「退職後に今の会社の競争相手になりません」という合意を従業員が会社と結ぶことがあります。競業避止義務契約というもので、この合意により負う義務を競業避止義務といいます。

内容は大きく分けて次の2つです。↓

  • 退職後に独立やライバル企業への転職をしない(就職制限)
  • 退職後に顧客を奪ったり従業員の引き抜きをしない(勧誘制限)

ここでは「1」の就職制限を扱います。
「2」の勧誘制限で訴えられている方は、『引き抜き・顧客への営業』をご覧ください。

就職してはいけないなんて契約が本当に有効なんですか?なんだかずいぶん横暴な話に聞こえるんですが。

常に有効なわけではありません。「1」の就職制限は、憲法で保障された職業選択の自由を制限することになるので、むやみやたらに認めるわけにはいきません。

合意があってもダメってこと?
従業員はそれでいいですってことでサインしたはずなのに。

はい、法に反することを勝手に合意されても困る、というわけで、競業避止義務契約は無制限に認められるものではありません。

でも常に無効になるわけでもないということですか・・?

はい、退職者がなんの制限も受けずに自由に振る舞ったら、それはそれで社会の利益を損ねます。 もしそういう世の中になったら会社は従業員に企業秘密を教えることをためらうようになり、従業員のほうも仕事がしづらくなってしまいます。

競業避止義務を完全に認めないのもまたおかしいわけです。そこで裁判所はこう判断します。↓

合理的なものであれば就職制限は合法です。

要するに、労働者の職業選択の自由と会社の事情とを秤にかけて、会社の事情の方が重ければ、就職制限は正当と認められるというわけです。

ではどういう場合に「会社の事情の方が重い」とみなされるのでしょう?裁判所は次の7点を考慮して判断します。↓

  • 合意の有無
  • 企業の守るべき利益
  • 従前の地位
  • 制限の期間
  • 制限される地域の範囲
  • 制限される職種の範囲
  • 代償措置の有無

それぞれについてざっと順番にみていきます。

1.  合意の有無

合意の無い就職制限は原則として無効です。

2. 企業の守るべき利益

就職制限をかけてまで守るべき機密などが会社にあるのかどうかがポイントになります。

3. 従前の地位

退職者が機密を知る立場にあったのかどうか、です。

4. 制限の期間

無期限の就職制限は認められません。
制限の期間が適切かどうかが問われます。

目安は1年ないしは2年です。長すぎるとみなされれば限られた期間だけ有効とされるか、あるいは就職制限そのものが無効になります。

5. 制限される地域の範囲

例えば同業者への就職のいっさいを禁止するのではなく、直接のライバルとなる近隣の同業者への就職だけを禁止する、といった退職者への配慮があることが望まれます。

6. 制限される職種の範囲

同業者への就職のいっさいを禁止するのではなく、禁止する範囲を絞り込むことが望まれます。例を挙げると、

  • 同業者の研究開発部門への就職だけを禁止する
  • 同業者の中でも特に主力商品で競業している会社への就職だけを禁止する

などです。

7. 代償措置の有無

従業員になんの見返りもなく、一方的に会社が就職制限を課すのは不公平です。 会社が従業員にどのような見返りを与えていたのかがポイントになります。

要するに大まかにいうのであれば、会社に重要な機密があり、従業員がそれを知る立場にあって、制限の期間が1〜2年程度で、見返りとなる充分な手当等をもらっていたのであれば、退職後の就職制限が認められやすいということです。

裁判に負けたらどうなるのか

裁判において、会社が従業員側に要求してくるのは、次の3つのどれかです。↓

  • ライバル会社への就職の差し止め
  • 賠償金
  • 就職の差し止めと賠償金の両方
1. ライバル会社への就職の差し止め

ライバル会社に就職したり、独立して起業することを禁止する判決を求めて裁判を起こすパターンです この裁判に負ければ、

あなたはあと1年間はライバル企業に就職してはいけません。

といった判決が出ます。すでに就職しているなら辞めなければいけないことになります。

その命令に逆らったら、私はどうなるんですか?
その場合は違反したことへの賠償金を改めて請求されるでしょう。
2. 賠償金

就職の差し止めは求めずに、かわりに会社が違約金や損害賠償を求めてくるパターンです。 お金で解決しようというわけです。

損害賠償を請求する場合は、「退職者がライバル会社に就職したことによって受けた損害」を金額に換算することが難しいため、

あの男は約束を破ってライバル会社に就職しただけでなく、ついでに顧客や従業員を奪っていったんだ。それによって会社は仕事ができなくなってこれだけの損害を受けたんだ!

といった訴えと組み合わせてくるのが普通です。 賠償金額がどのように決まるかは、別ページ『競業避止義務違反の賠償金』をお読みください。

3. 就職の差し止めと賠償金の両方

会社が退職者を告訴する場合の第3の道は、就職の差し止めと賠償金、の両方を要求するというものです。

退職者がすでにライバル会社に就職しているとき、会社は、退職者に今の会社を辞めることを要求し、さらにこれまで就職していたことについて賠償金を請求してきます。

裁判で勝つために

競業避止義務を巡る裁判では、労働者が有利なんですか?それとも会社が有利なんですか?

そこはケースバイケースとなります。労働者は憲法で保障された職業選択の自由を味方にしているわけですから、なんとなく労働者に有利な印象を持つかもしれませんが、実際には競業避止義務の有効性が認められることも多いです。

一般に労働事件では、労働者が会社を訴えるものですが、競業避止義務を巡る裁判では会社が労働者(退職者)を訴えるのが普通です。

退職者は追及される側であり、会社はそれなりに勝算があると見込んで訴えるのでしょうから、裁判は簡単なものにはならないことを覚悟してください。

とはいえ競業避止義務の契約は、あまり会社に都合のいい内容にすると、

そんな身勝手な契約は認めません。職業選択の自由があるのですから。

という風に、却って会社に不利になってしまうので、会社にとっても適切な内容を定めるのが難しいものです。

そして会社は往々にして、建前では機密を守るために必要だと言いながら、実際には起業や転職をさせないためのハードルとして競業避止義務を定めます。

正当な競争から逃れるために競業避止義務を用いるのは筋違いです。そういう目的で契約を定めることが、会社の弱点となります。

裁判で勝つためのポイント

競業避止義務契約の有効性を裁判所が判断する際、以下の7つのポイントがありました。↓

  • 合意の有無
  • 企業の守るべき利益
  • 従前の地位
  • 制限の期間
  • 制限される地域の範囲
  • 制限される職種の範囲
  • 代償措置の有無

それぞれのポイントを巡ってどのように会社と争うのかを見ていきましょう。 戦いかたはたくさんあります。

やや踏み込んだ内容ですので、興味のある人だけお読みください。

合意の成立

競業避止義務の合意の有無や合意の有効性を巡っての争い方です。

合意が成立していない

そもそも会社とアオバさんは競業避止義務契約を結んでいない。

会社はしばしば、競業避止義務の合意がなかったにもかかわらず、あったと主張してきます。 ただの守秘義務契約を拡大解釈し、競業避止義務契約だと強弁してくる、といった具合です。 合意がなかったのであればその点を主張します。

充分な説明がなかった

競業避止義務の合意を結んだことは結んだが、会社は契約内容を充分にアオバさんに説明していなかった。

職業選択の自由が制限されるという重い意味を持つ契約ですから、会社は充分な説明を事前にすべきです。

合意書に小さく書かれていただけの内容でよく読む時間が与えられていなかったり、意味がわかりづらかったのであれば合意は無効だと主張します。

従業員には断る権利がなかった

アオバさんには事実上、競業避止義務契約を拒否する権利が与えられていなかった。

入社後しばらくしてから、あるいは内定式を済ませ入社直前といったタイミングで、

あ、そうそう、この書類にサインしておいてね。

と言われたら、労働者が拒否することは難しいでしょう。弱い立場につけこんだ重大な合意は無効である、と主張します。

競業避止義務契約が簡単には認められない理由の1つとして、労働者がほんとうに自由意思でその契約を結んだのかが怪しいという点があります。

就業規則に書かれていなかった

会社は就業規則で競業避止義務を定めていたと主張するが、虚偽である。定められてなどいなかった。

就業規則を細かくチェックする労働者が少ないのをいいことに、書いていなかったことを書いてあったと主張してくる会社もあります。

昔に作成された就業規則は、競業避止義務を定めていなかったり内容がいい加減であることが、少なくありません。

就業規則が周知されていなかった

会社は5年前に就業規則を改正し、競業避止義務を定めたと言うが、その就業規則は労働者に周知されていなかった。

就業規則は従業員がいつでも閲覧できる状態にしておかなければいけないのですが、そうしていない会社もあります。周知されていなかった就業規則は無効です。

企業の守るべき利益

競業避止義務を課す必要があるのかを巡っての争い方です。

守るべき機密がない

会社には特段の機密など存在しないので、アオバさんに競業避止義務を課す理由がない。

競業避止義務の有効性をめぐる争いは、つまるところ労働者の職業選択の自由と、会社の機密保護の重要性のせめぎ合いです。

会社に大した機密がないのであれば、

その程度のものを守るために労働者の基本的人権を制限することはできません。

と判断されます。ではどんなものが重要な機密と判断されやすいかですが、少し長くなるので別ページ『競業避止義務で保護されるノウハウや機密情報』で考察しています。

守秘義務契約で足りる

会社が機密を守りたいのであれば守秘義務契約を結べば足りる。アオバさんの就職を制限する必要はない。

会社に機密が存在するのだとしても守秘義務契約で守ればいいのだから、不必要に基本的人権を制限することは許されない、と主張します。なかなか有効な主張です。

特に、会社が自社の先端技術やノウハウ等の存在を立証できず、取引先の個人情報の保護、といった(いかにも取ってつけたような)主張をしてくる場合は、この反論で充分です。

会社のノウハウではない

会社の主張するノウハウはそもそもアオバさんが築いたものであり、会社の財産ではない。

転職によってノウハウや技術や顧客情報が流出してしまうと主張する会社は多いですが、それを主に築いたのが1人の優秀な社員だったのであれば、会社が独り占めする権利はないはずだと主張します。

優秀な社員の転職によって会社が困るのなら、待遇を改善すればよかったのであって、それを怠った責任は会社にあるのではないでしょうか。

転職が会社に実害を与えない

アオバさんが転職した会社は、元の会社と競合関係にない。転職は会社に実害を与えていないので、問題にする理由がない。

同業者への転職を会社が禁止するのは、会社の利益を守るためのはずです。 しかし同業者の全てがライバルであるとは限りません。

うちはシステム開発会社だから、システム開発業をしている会社全てがライバルだよ!

と会社は言うかもしれませんが、システム開発といっても業態はいろいろあるはずです。組み込みのシステムなのかWebのシステムなのか。

大規模なものなのか小規模なのか、顧客は企業(B to B)なのかそれとも個人(B to C)なのか、企業だとすれば特定の業種に偏っているのか、などなど。

他にも年齢、性別、地域などターゲットの属性はいろいろあります。それらが異なるなら転職先の会社はライバル会社と呼べないはずなので、転職は会社に損失を与えず、禁止する理由がない、と我々は主張します。

従前の地位

会社に機密情報があったとして、では退職者がそれを知りうる立場にあったのかどうかが問題になります。

単純に地位の高低の問題ではなく、機密を扱うポジションにいたのかどうかが重要です。しかし現実には、高い地位にいたのであれば何か機密を知っているはずだ、と裁判所に判断されやすい傾向もあると感じます。会社が大きい場合は特に。

むしろ、自社にどんな機密情報があるのか会社が具体的に立証できないときに、

うちは大きな企業なんだし、アオバはそこの取締役だったんだから、いろいろ機密を握ってるに決まってるじゃないか!

といった風に、競業避止義務を課す正当性の根拠として、会社が退職者の地位を利用してくることがよくあります。

いろいろな機密とは具体的に何でしょうか?
そりゃまぁ経営戦略とか・・とにかく色々だよ。機密だから内容はここでは言えないけどね!

こういう雑な主張を許すべきではありません。

会社にどういう機密があったのかは、就職制限の期間、地域、職種の妥当性を裁判所が判断するにあたって、重要な情報です。

そこを曖昧にしたまま、「取締役だったからいろいろ知っているはずだ」はおかしいのではありませんか?

・・・・。

全員に合意を結ばせている

会社は従業員の全員に競業避止義務契約を結ばせている。何のための契約だったのか疑問と言わざるを得ない。

いちおう結んでおこうという軽い気持ちで従業員の全員と競業避止義務契約を交わす会社があります。しかしそういうことをすると、裁判官の心証を損ないます。↓

そういう軽い気持ちで定めたものだったんですか。じゃあそもそも守りたい機密が本当にあるのかどうかも怪しいものですね。

と、却って会社は不利になります。退職者が本当に機密を知りうる立場にあったのかという点も疑われます。

「書いておいて損はないだろう」という姿勢は、競業避止義務契約においては通用しないのです。

制限の期間

無期限の就職制限はまず認められません。1年から2年が標準的です。以前は2年が多かったのが今は1年をよく見るようになってきました。

制限期間が長すぎる

会社の定める5年という就職制限期間は、異常に長い。競業避止義務の合意はまるごと無効とすべきである。

会社が長すぎる制限期間を設定している場合は、競業避止義務の合意そのものが全て無効だ、とこちらは主張します。

こちらにとって嫌なのは、裁判官がこう考えるときです。↓

5年は長すぎるので2年ならいいでしょう。

こういう風に、裁判官が期間を短縮したうえで競業避止義務を認めてしまうケースです。 そういうケースもあります。

しかしそれが安易に認められれば、

とりあえず契約では10年ぐらい制限しておいて、あとは裁判官にてきとーに調節してもらおう。

といった、吹っかけたもの勝ちという姿勢がまかり通ることにもなりかねません。

退職者の全員が、競業避止義務の正当性をめぐって裁判をするわけではありません。裁判を怖れて泣き寝入りした退職者は、会社がいい加減な考えで決めた5年や10年という期間、就職を制限されてしまうのでしょうか。

職業選択の自由という基本的人権が、そんな軽いものであって良いはずがありません。

会社は退職者の基本的人権の制限を、どうしても必要な最小限の範囲に抑える努力をしなければいけません。

会社の設定した制限期間が異常に長すぎるということは、会社がそうした努力を怠ったということなのですから、安易に期間を限定し有効とすべきではないでしょう。

短ければいいわけではない

基本的人権は、短期間であれば制限して良い、というものではない。

長すぎる制限期間は論外ですが、さりとて短ければいいというものでもありません。半年ならいいだろうと、いうわけではないのです。

たった半年、就職が制限されるぐらい別にいいじゃないか。雇用保険だって出るじゃないか!

などと言ってくる会社もありますが、基本的人権は実害が少なければ制限していいというものではありません。 どうせあなた選挙に行かないんだから、という理由で選挙権を奪うことは許されるでしょうか?

会社は退職者の就職を制限すべき・・制限しなければいけない・・理由を明らかにする責任を負っています。制限期間が短いからといって、競業避止義務の有効性がおいそれと認められるべきではないことを、我々は主張します。

それに加えて、

半年が短いというなら、そんな短期間、退職者の就職を制限することが、どうして会社にとってそこまで重要なのでしょう?

という点から、会社を追及することもできます。半年、就職を制限することで、いったい会社はどんな機密情報を保護しようとしているのでしょうか?

制限される地域の範囲

就職制限をかける地域の範囲を巡る争い方です。

就職制限のエリアが広すぎる

会社の定める競業避止義務には、地域の限定がない。これは不必要に基本的人権を制限する契約であり、無効である。

会社はよくこう言ってきます。↓

在職中に手に入れた顧客情報を使って営業をかけるのはずるい。だから競業避止義務で就職を制限することに正当性がある!

しかし、会社の業務が学習塾やエステなど地域に根ざしたものであるのなら、奪われるおそれのある顧客はその地域に限定されているはずであり、全国一律に就職を制限する必要はないはずです。

不必要に基本的人権を制限する契約は無効だ、と我々は主張します。

狭いようで狭くない

会社は就職制限が東京に限定されていると言うが、この仕事の顧客は多くが東京に集中しているのであるから、範囲が狭いとはいえない。

一見狭いようでいて実は狭くないという地域的限定もあります。

範囲の設定に合理性がない

会社の定める地域の限定には合理性がない。

会社が独自のノウハウを保護するためと称して競業避止義務を定めているにもかかわらず、その地域的範囲がかなり限定されていることがあります。例えば東京の同業者には就職禁止、といった具合です。

範囲が狭ければ文句は無いだろうと会社は考えているのかもしれません。しかし本当に自社独自のノウハウを保護したいのなら、退職者の就職制限の範囲を東京だけに限定するのは、むしろおかしな話ともいえます。

東京以外の同業者にならノウハウが流出してもいいのですか?

というわけで、そもそも保護すべき独自のノウハウが本当にあるのかも疑わしいものです。

保護したい機密の種類によって、競業避止義務契約に定めるべき内容は変わります。そこを間違えると、何を保護したいのかわからない契約になります。

そういうところが会社の弱点となります。

制限される職種の範囲

就職制限をかける職種の範囲を巡る争い方です。

就職制限の内容が広すぎる

会社が定める競業避止義務の内容は抽象的であり、その範囲が不必要に広い。

「競合関係にある企業への転職を禁止する」といった契約内容はよくありますが、意味するところがはっきりしません。

「競合関係にある企業」とは何でしょうか?少しでも業務が重なっていれば競合関係にあるのでしょうか?

任天堂は今も花札を作り続けていますが、他の花札メーカーは任天堂にとって競合関係にある企業といえるのでしょうか?

そして、制限される職種も不明です。

ライバル会社の受付嬢に転職するのもダメなんですか?
定年退職後にライバル企業で清掃員のアルバイトをするのも禁止なのですか?

また、「競合関係にある」とはどの時点ででしょう? 競業避止義務の合意を結んだ時点で競合していた会社を指すのでしょうか?それとも退職した時点でしょうか?

もしかしたら、退職後に元の会社が新たに事業を始めた場合には、そのライバル会社で働くことさえ競業避止義務違反になるのでしょうか?

揚げ足をとるな。そんなこと今回の裁判には関係ない!

と会社は言うかもしれませんが、会社は職業選択の自由という基本的人権を制限しようとしているのですから、それなりの誠実さ真剣さが求められます。

とかく会社は、書いておいて損はないから、程度の軽い気持ちで、さまざまな規定にサインさせようとするものです。

そうした「軽い」規定で競業避止義務を課そうという態度には、裁判官もきっと良い印象をもたないはずです。

この規定は本気で作ったのだろうか? いちおう書いておきました、というだけではないのか?

よく練り込まれた、過不足のない競業避止義務を定めることは、基本的人権を制限される退職者への、会社のせめてもの誠意でしょう。

代償措置の有無

競業避止義務を引き受けることの見返りがあったのかどうかを巡る争い方です。

明示的な代償措置がない

会社は明示的な代償措置を用意していなかった。競業避止義務は無効である。

何の見返りもなく就職制限を課すのは不当です。 就職制限によって退職者は生活の糧を奪われかねないのですから、その犠牲に見合う対価を事前に払っておくことが会社には強く求められます。

そしてその対価は、はっきり対価だとわかるものであるべきです。

君の働く部署は機密情報を扱うから退職後の競業避止義務を定めさせてもらうよ。そのかわり退職金は他の部署の2倍出すから。

といった契約であれば、対価であることがはっきりわかります。

そうではなく、

君の給料はけっこう高かったよね。あれが実は競業避止義務の対価だったんだよ。

では、いかにも後付けの理屈に聞こえ、説得力がありません。 裁判官はこうした主張を認めるべきではないでしょう。

明らかに対価ではない

会社は競業避止義務契約をアオバさんの退職直前に交わしている。それなのに退職金の増額がない。

従業員の退職直前に、会社が慌てて競業避止義務契約を結ばせようとしてくるケースは珍しくありません。

どうせ辞めるのだからサインしなければいいのですが、会社と気まずくなるのが嫌で何となく合意してしまう人も多いようです。

しかし退職直前の合意であるなら会社がよく言ってくる・・

アオバは給与が高かったでしょ。それが競業避止義務の対価だよ。

は通用しません。合意を結ぶ前に払っていたお金が、合意の対価であるはずがありません。

対価として不充分だ

会社の支払った〇〇円という金額は、競業避止義務の対価として不充分だ。

それなりの金額でなければ対価とは呼べません。月1万〜2万円ていどの役職手当をもって競業避止義務の対価だったと主張してくる会社もありますが、認められません。

ではいくらぐらいならいいのかという話ですが、

この〇〇円が競業避止義務の対価だからね。

と、会社がはっきりわかる独立した形で代償を定めていることは少なく、現実には給与や退職金が高額だったのかが、裁判の争点となりがちです。

給与が年1000万円ていどあると、認められやすくなる傾向は感じます。↓

けっこうな金額をもらっていたようですから、競業避止義務の対価だったとみなしてもいいでしょう。

660万円ほどで認められた裁判例もあります。なかなか例外的なケースだろうとは思いますが。

そもそも私は、競業避止義務の対価だと明記されていない報酬を、後付けで対価だったとみなすことに問題があると考えます。

高額の報酬がすべて労働の対価なのか、それとも競業避止義務の対価も含んだものだったのか、区別できるものでしょうか。

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代表弁護士加地弘

文責:青葉法律事務所弁護士 加地弘

この10年以上、ほとんど労働事件ばかりを扱ってきました。相談に始まり裁判まで多くの経験を積んでいます。 区役所、上場企業などでセミナー・講演多数。 2016年から労働局の東京都労働相談情報センターからの依頼で、セミナー講師を務めてもいます。

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