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不当解雇とお金〜慰謝料と賠償金への誤解

不当解雇だと訴えて得られるお金の話をしましょう。

どうも世間では、裁判をしてもわずかなお金しかもらえないといったネガティヴな話が広まっているようにも見受けられますが、実際はそう割の合わないものでもありません。

私の事務所では、依頼人の多くが金銭的にも満足してくれたのではとないかと思っています。

賠償金・慰謝料への誤解

世間に広まっている誤解として、「裁判では会社に慰謝料を請求する」というものがあります。 「裁判=慰謝料」と思っている人が多いのでしょう。

たしかに慰謝料を請求することもありますが、それが全てではありません。慰謝料とは、不法行為で受けた精神的なダメージへの賠償金であり、あくまで請求する金銭の一部に過ぎないものです。

後述しますが、不当解雇事案ではふつう、慰謝料を請求してもあまりもらえないか、あるいは全くもらえません。 その事実が独り歩きし、裁判などしても仕方ないという誤解が生じているように思えます。

裁判をしてもせいぜい50万〜100万円くらいにしかならないとインターネットで見たんですが・・。

と人が言うとき、まさにそれは慰謝料のことを言っていると思われます。

たしかに慰謝料には期待できません。 しかしその代わりに、「バックペイ」と呼ばれる未払い賃金を受け取ることができます。

バックペイはふつう、給料の1年〜2年分ほどになります。1000万円を超えることも珍しくありません。 「不当解雇だと訴えてもわずかな額しかもらえない」ということはないのです。

「賠償金」という言葉にも注意が必要です。不当解雇事件において「賠償金」は「慰謝料」とほぼ同じ意味です。 なので『不当解雇 賠償金』と検索すると、慰謝料について語られているページがずらっと出てきます。

不当解雇だと訴えても賠償金はなかなかもらえませんよ。

と弁護士が言っているのを聞いて、あぁ割に合わないのかと思う人もいるかもしれません。

参考までに、裁判で使われるお金にまつわる用語について、意味を区別できるようまとめておきましょう。↓

名称 税金 意味
慰謝料 × 不法行為によって生じた精神的なダメージへの賠償金。所得ではないので税金がかからない。
逸失利益 × 不法行為がなければ手に入ったはずの利益。不当解雇事件で請求することはあまり一般的ではない。
賠償金、
損害賠償金
× 不法行為によって生じた損失全体への賠償金。逸失利益や慰謝料を合わせたもの。不当解雇事件では慰謝料とほぼ同義。
バックペイ 解雇が無効とされたときに発生するこれまでの未払い賃金。所得扱いとなるので税金がかかる。
解決金 △(金銭の性質による) 通常、和解するときに使用される用語。和解したときに支払われる金銭のこと。

請求するもの

会社に請求するものについて、詳しく見ていきましょう。 まず、会社を訴えるには、大きく分けて、次の2つの道があります。↓

  • 自分がまだ従業員の地位にあると主張するとともに、バックペイを請求する
  • 退職はするが(従業員の地位にあるとは主張しないで)、慰謝料などを請求する

ふつうは「1」です。この解雇は無効であり、自分はまだ会社の従業員であると主張して会社を訴えます。

まだ従業員であるにもかかわらず、それまで(裁判が終わるまで)の賃金を会社からもらっていなかったわけですから、その分を未払い賃金として会社に請求できます。これが「バックペイ」です。

つまり裁判が終わるまでに2年かかったのなら、2年分の給料をもらえるということですか?
まさにそういうことです。
でもぼくはその間、働いていないんですよ?
働いていないのではなく、会社が不当解雇をしたことで働かせてもらえなかったのです。責任は会社にあるのですから、堂々と請求してください。

そのかわり、と言ってはなんですが、バックペイを受け取れた場合は、慰謝料(精神的なダメージへの賠償金)は基本的にもらえません

あなたの心の傷は、バックペイで癒えたでしょう。慰謝料は必要ないですよ。

という扱いにされてしまいます。

(働いてないのにバックペイもらえたんだからいいじゃないですか。)

ということなのでしょうか?
慰謝料をもらえるのは、会社がよほど悪質なことをした場合のみです。 もらえた場合でも大抵は少額にとどまります。

先も言ったように、この「慰謝料をもらえない」という事実が独り歩きし、誤解を生んでいるように思えます。

裁判なんかしても、すずめの涙ほどの額しかもらえないんですよね?

そういう声をときどき聞きます。
実際にはバックペイがあるので、受け取れるお金が少額なわけではないのです。

さて話を戻しましょう。会社を訴えるには2つの道があったのでした。↓

  • 自分がまだ従業員の地位にあると主張するとともに、バックペイを請求する
  • 退職はするが(従業員の地位にあるとは主張しないで)、慰謝料などを請求する

「2」を選ぶのは特殊な場合のみです。どんな場合かといえば、自分がまだ従業員の地位にあると主張するのがふさわしくない場合などです。

例えば、労働者がすでに次の会社に正社員として転職していて、しかもそこでの待遇が前の会社よりもはるかに良いということになると、

あなた、もう元の会社の従業員じゃないでしょう。明らかに。

とみなされる可能性が出てきます。 転職したことで、元の会社の従業員の立場を放棄したと判断されかねないのです。

そういう特殊な場合のみ「2」の、退職したうえで慰謝料請求、という道を選びます。 私はほとんど選んだことがありません。依頼者が元の会社に絶対に戻らないということであれば別ですが。

ちなみに、慰謝料を請求してもほとんどもらえないという話でしたよね?

いいえ、バックペイを請求しない場合は、慰謝料もそれなりにもらえます。 とはいえ、バックペイを受け取る場合と比べれば、金額が少なくなってしまいがちです。

どのぐらい減るんですか?

バックペイと違い機械的に算出することができないのでいくらとは言いづらいですが、少ないと賃金の1〜2ヶ月分、おおむね賃金の6ヶ月分程度でしょうか。

ですので、できれば地位の確認をして、バックペイを請求したいところです。 労働者が次の会社に転職をしていても、待遇がかなり良くなっているといった事実がないなら、元の会社にバックペイを請求することができるので安心してください。

Point

労働者が次の会社に転職をしていても、バックペイを請求することはできる。

お金にまつわる色々

裁判に勝ってバックペイがもらえるなら、解雇されてから1〜2年ぶらぶらして、その後に訴えたほうが得なんですかね?

バックペイを溜めてから訴えたほうが、請求額が増えるのは確かです。 ただし解雇されてからおとなしく黙っていた期間があまり長いようだと、解雇を受け入れたとみなされる可能性があります。

なお、請求できるバックペイの時効は3年です。

じゃあどんなに頑張っても裁判で受け取れるのは賃金の3年分までということですか。

いえ、裁判が始まれば時効は関係ありません。裁判が終わるまでに5年かかったのであれば5年分のバックペイを受け取れます。裁判を起こした時点で請求できるのが過去3年分までということです。

その3年という時効も、内容証明などを会社に送ることで1回だけ(半年間)延ばすことができるのですが。

  なお、従業員としての地位確認請求には、裁判そのものを起こせなくなる時効はありません。請求できる金額(その計算期間)が時効によって制限されるというだけです。
解雇されてから失業保険をもらって暮らしてたんですけど、なにか問題はありますか?

裁判に勝ったときに返還すればいいだけなので問題ありません。 勝てばそれまでの賃金をバックペイとして受け取れるのですから、返還するお金に困ることもないはずです。

失業保険を受け取ったということは、解雇を受け入れたということだ!

そう会社は言ってくるかもしれませんが、関係ありません。

なお、これから失業保険を受けるのであれば、仮給付という形で申請しておくのがいいでしょう。 まさに、裁判で不当解雇を争っている人に、給付されるお金です。

本給付と何が違うかといえば、仮給付であれば失業保険を受け取っていても、求職活動をするようハローワークから言われないのです。

でも失業保険を例えば1年分もらっていたのなら、裁判に勝ってお金をもらってもあんまり得はないんじゃないですか? 失業保険の返還分と差し引きすると、下手すれば足が出たりして。

足が出ることはないと思うのですが、失業保険は人によっては賃金の80%も出るわけですから、返還すれば実質的に獲得金額がそれなりに減ってしまうことは確かです。裁判をする意味がなくなると感じる人もいるかもしれません。

そういう場合には、裁判を最後まで戦い判決を取るのではなく、途中で会社と和解することを目指すのが良いかもしれません。

まずは解雇の無効を主張しバックペイを請求しつつも、途中で退職を受け入れることを条件に和解をし、バックペイではなく「解決金」として会社から金銭を受け取ります。

そのうえで、解雇された日付で会社を退職した扱いとしてもらうのです。

それなら失業保険を返還する必要がなくなるので、地位確認をしてバックペイをもらう形よりもお金の面では得かもしれません。

復職を放棄する前提ではありますが。

私は解雇されたあとアルバイトしているのですが、バックペイをもらうにあたってアルバイト代はそこから引かれたりするんですか?

はい、引かれてしまいます。アルバイト代が200万あったのなら200万がバックペイから引かれるのが原則ですが、一方でバックペイの60%は必ず会社からもらえるというルールもあるので、実際はそこまで引かれないかもしれません。

どんなに引かれても、バックペイの60%は受け取れるということです。

アルバイトではなく正社員として働いていた場合も同様です。次の会社で受け取っていた賃金が引かれるので、バックペイが大きく減る可能性があります。

そういう場合には、裁判を最後まで戦い判決を取るのではなく、途中で会社と和解することを目指すのが良いかもしれません。

まずは解雇の無効を主張しバックペイを請求しつつも、途中で解雇を受け入れることを条件に和解をし、バックペイではなく「解決金」として会社から金銭を受け取ります。

次の会社でもらっていた賃金は、解決金からは引かれません。 すでに会社を退職しており、バックペイとしてお金を受け取るわけではないからです。

結果として、解決金という形で受け取る方が、地位確認をしてバックペイをもらう形よりもお金の面では得になるかもしれません。

復職を放棄する前提ではありますが。

裁判に勝ったときのバックペイは、給料の手取り分で計算されるんですか? それとも税金や社会保険が引かれる前の額でもらえるんですか?

両方のパターンがあります。解決の仕方しだいです。

つまり額面30万、手取り24万だとしたら、24万×12ヶ月という形でバックペイの1年分を受け取ることもあれば、額面30万×12ヶ月で受け取ることもあります。

とはいえ額面で受け取っても、けっきょく労働者が社会保険や税金を自分で納めるだけなので、得をするわけではありません。会社が過去にさかのぼって社会保険や税金を労働者にかわって納めるのか、労働者が自分で納めるのか、の違いだけです。

税金を払うことに変わりはないということですね。

判決と和解どちらが得か

バックペイを受け取れるのは、訴訟をし、勝訴の判決をもらった場合です。 しかし多くの事案は和解で決着します。

私の事務所では、裁判をする前の和解を含めれば、9割ぐらいが和解で決着しています。

裁判を最後まで戦い判決をもらったほうが、会社と途中で和解をし、解決金をもらうより、ふつう、獲得金額は増えます。

それでも多くの人が和解を選ぶのは、敗訴への不安や、早く解決したいという気持ちからですが、加えて、先述のように、バックペイには次の問題があるためです。↓

  • 失業保険を返還しなければいけない
  • 次の会社で受け取っていた賃金が引かれる

和解をし解決金として金銭を受け取れば、これらの問題は生じません。

それゆえ、単純に金銭面だけを考えれば、和解をしたほうが、判決をとりバックペイを受け取るより得な場合もあります。

例えば、判決をもらいバックペイとして控除前で1000万認められても、次の会社で得た賃金を引かれ実入りが600万になるのなら、和解をし解決金として850万をもらったほうが得だったかもしれません。

復職を放棄することにはなりますが。

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代表弁護士加地弘

文責:青葉法律事務所弁護士 加地弘

これまで不当解雇事件を80件以上扱ってきました。1人でこれだけの数を経験している弁護士は、それほど多くはいないと思います。

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